ここ最近、テレビや新聞では、連日にわたって時津風部屋の時太山が稽古後に急死した問題をとりあげている。年齢にしてまだ17歳の若者が夢を抱いて入門して3ヶ月後の出来事であった。全身はアザだらけになり、両耳は半分ほど引きちぎられ、額には親方が振り下ろしたビール瓶によってできた傷が痛々しく残っていたとか。顔面は目を開くこともできないほどに腫れ上がり、内出血によって牛の模様のように変色していたらしい。いくら「かわいがり(ぶつかり稽古)」が激しいからといって、これほどまでの状態になるなんて有り得ないし、そうなる前に親方が止めるべきであった。が、今回の件に関しては「親方の指示によるものなのでは?」という声もでてきている…。本来、かわいがりは5分から長くても10分ほどの間で行われるもので、それだけでもかなりの体力を消耗するものなのだ。にも拘らず、入門したての新米力士相手に30分以上ものかわいがりなんて…はっきり言って拷問以外の何ものでもない。かわいがり自体を全面的に否定するつもりはないけど、やり方を間違えると大変な結果を招くということを再認識するべきだと思うね…


さらに今回の出来事がきっかけで、入門予定だった新弟子たちが相次いで入門を辞退するという騒ぎにもなっているとか…。実は俺も子供の頃に相撲をやっていた経験がある。わんぱく相撲でテレビにも出たことがあるほどだ。中学に進むときに「もうお尻を出したくない」という思春期的な理由で柔道に転向したわけだけども、高校に進学するときには相撲の名門から特待生枠をもらったりもした。このときは柔道一直線だったので丁重にお断りしたのだけど、もし相撲の世界に進んでいたらと思うとゾッとするね。でもまぁ、相撲に限らずスポーツや武道の世界には、指導者を頭にピラミッド型の構図が存在するわけで、指導者や先輩には絶対に逆らえないのである。俺がいた高校もまさにそれで、1年生の間は奴隷のように扱われたのを覚えている。
奴隷なんて大袈裟な…って思う人もいるだろうけど、こればっかりは経験した人じゃなきゃわからない世界なのだ。口ごたえしようものなら「説教」という名のリンチが始まるのだから…。俺が始めて説教されたのは、本入部が決まった日だった。仮入部中は優しかった先輩達の目つきが、練習の終了を合図に変わったのがわかった。真新しい手拭いを渡され「目隠しして部室で正座して待ってろ」と告げられた俺たちは、「まさか説教じゃないよね」なんて冗談を言いながら部室に入った。なぜ俺たちがこんなことを言ったかというと、柔道部物語という漫画で、本入部の日に1年生が説教されるシーンを見たことがあったから。(漫画での説教とは、何時間も延々としごくというもの)
目隠し状態で正座をして待っていると、ガラガラというドアが開く音と同時に、いきなり俺のお腹に蹴りが入った。何も見えないうえに力を抜いているところに容赦のない蹴り…呼吸困難になりながらも自然とでてきた呻き声が部室を覆いつくす…。が、先輩達はそんなことはお構いなしで、全員で俺をリンチした。口の中は血まみれで、鼻血も垂れ流し…意識がもうろうとする中、彼らの言い分はこうだった。
「お前が一番生意気なんだよ」
血まみれになった俺を見ても、彼らは慌てる様子もなく、次々と1年生をリンチしていった。時間にして3時間ほどだろうか…殴り疲れた彼らは、満面の笑みを浮かべながら帰っていった。俺たち1年生は、先輩達のいなくなった部室で泣きながら肩を抱き合い、そして誓いをたてた。まずひとつは「何があっても絶対に辞めない」そしてもうひとつは「こんな伝統は俺たちの代で終わりにする」であった…。ブログを書いてる今も、当時を思い出して身体が震え、頭が痛くなってきた。それほど辛い思い出なのである。ちなみに…監督は説教に関して常に見て見ぬふりだった…。
少し話が逸れてしまったけど…俺が思うに、権力というのは非常にデリケートなもので、これをうまく使いこなせる人は少ないように思う。まだ右も左もわからないような若者が権力をもってしまったとき「相手を支配してやろう」という錯覚を起こすのだ。1971年に、スタンフォード大学の心理学部で行われた実験をご存知だろうか。新聞広告によって集められた24名が、無作為に「看守役」と「囚人役」にわけられて、模擬刑務所で2週間過ごすというものなんだけど、わずか7日目で実験は中止。心理学者の想像を遥かに超える惨事になってしまったためである。後に映画化されたのを観た人も多いんじゃないかな(es[エス])
1人の尊い命が亡くなった今、日本相撲協会は全力で原因を究明してほしいと思う。時津風親方や兄弟子が真実を語ってくれることを心から願うとともに、時太山のご冥福を心からお祈り申し上げます。

おすすめの記事